近代魔術の基礎「カバラ」とは

カバラとは

魔術は世界各地に存在し、現代も脈々と受け継がれる神秘。最近はネットで情報が出回り、比較的簡単に学べるようになりました。

ただし、いくら簡単と言えど何千年と続く思弁の極致。そう簡単には習得できたものではありません。多くの方は基礎知識をつける時点で量が多すぎ諦めてしまうと思われます。

というわけで今回は基礎知識の紹介として、カバラの秘法について大まかに説明していきたいと思います。

カバラとは?

神秘カバラとは、大元を辿ればユダヤ教の伝統に根ざす神秘主義思想です。

ヘブライ語で「伝承」を意味する言葉であり、12~13世紀に南フランスやスペインにいたユダヤ教神秘主義者たちが、自らの思想をカバラと名付けたと言われています。

カバラのもととなったユダヤ教神秘主義自体は、神話的な記述を採用すれば紀元前から、歴史的な記述としても紀元一世紀あたりからは確認されます。

その後3~6世紀に大きく発展を見せ、15世紀にはイタリアの哲学者であるピコ・デラ・ミンドーラによってキリスト教にも応用されます。

それを皮切りに西洋魔術内でのカバラ研究が盛んになり、現代の魔術体系に至るまで、多くの西洋魔術体系にて基本思想として受け継がれていきました。

現代伝わるカバラ思想は、魔術体系や成り立ちなどからいくつかに分類されます。

有名な分類法としては使用目的などに由来するものがあげられますね。

  • 神秘学的な理論説明に求められる「思索的カバラ」
  • 魔術の実戦を重視する「実践的カバラ」

上記の実戦的カバラに半ば含まれる概念として

  • 魔術に特化した「魔術的カバラ」
  • 予言を目的とした「予言的カバラ」
  • 忘我的な神秘体験を目的とした「忘我的カバラ」

などの分類があげられます。

歴史的に見れば

  1. ユダヤ教の伝統を受け継ぐ本来の「ユダヤ・カバラ」
  2. 中世より勃興したキリスト教解釈に用いられる「クリスチャン・カバラ」
  3. 上記のクリスチャン・カバラから分岐した「ヘルメス・カバラ」

といった三つの分類があげられます。

細かく見ていけば魔術体系、そして使用する魔術者ごとにまで異なっていきそうなのですが、大まかな分類としてはこれで十分でしょう。

こういったカバラは、神秘学やオカルティズム、神智学、タロット理論など多くのオカルト理論に応用され、今や西洋魔術に足を踏み入れるのであれば避けては通れないものとなりました。

具体例として多くの魔術団体で採用されているものは、「ヘルメス・カバラ」の流れを継ぐ「実践的カバラ」で「魔術的カバラ」と言われるもので、黄金の夜明け団が採用した影響を受けていると言われています。

生命の樹(セフィロトの木)とは

木

カバラの神秘思想の中核であり、シンボルとして扱われる生命の樹。(セフィロトの樹)

カバラの秘術を使うにあたって、この生命の樹をいかに読み解くかが重要になってきますね。

旧約聖書内で言えば、創世記にてエデンの園の中央に植えられた木として知られています。

知恵の実を食べたアダムとイブが、この生命の樹の実をも食べて永遠の命を得て、神をも脅かす存在となりえるのを恐れて、神がエデンの園からアダムたちを追放した、と言う逸話を持つ木です。

カバラ神秘学的な意味合いでの生命の樹は、カバラの古典的な聖典とされる『セフェール・イェーツィラー』にて初めて解説されました。

生命の樹は大まかに分けて

  • 10の球体(セフィラ)
  • 三本の柱
  • セフィラ同士をつなぐ22本の径(チャネル)

で構成されています。

この10のセフィラ、三本の柱、22本のチャネルにはそれぞれ意味があるとされ、それらを読み解くことによっていかなる事をも理解していくことが可能であるとされています。

今回は大まかに各位置の意味合いを押さえ、簡単にセフィロトを理解していきましょう。

10の球体(セフィラ)

天使

十個あるとされる神的属性を象徴するものですね。

各属性をセフィラと呼び、全体を通してセフィロトと呼びます。

古来より、ユダヤ教において神はいかなるものからも認識されず、いかなる属性にもとらわれないものとして扱われました。

聖書に描かれるような感情はあくまで人間に示された断片的な物でしかなく、本来それらを超越した不可知なるものとされたのです。

そういった不可知なる存在としての神は「エン・ソフ(無限なもの)」と呼ばれました。

このエン・ソフの世界を仮に第一の世界とすると、我々の存在する現物質的な世界は二次的に派生した世界であり、この二次的世界が派生した理由を、13世紀に描かれたカバラの聖典である「ゾハルの書」は、神が神自身を認識するために作ったとしています。

ゾハルの書によれば、神性が流出されることにより初めて神が認識され、その神聖の流出により万物が創造されたと言われています。

その神性の流出の過程を描いたのが生命の樹であり、各神性を担うのがこのセフィラです。

第一セフィラ

ケテルと呼ばれるセフィラです。

中央の柱に位置し、至高の王冠などと呼ばれます。

あらゆるものの頂点であり、また想像の原点であり、無であるものです。

第二セフィラ

ホクマーと呼ばれるセフィラです。

ケテルから流出し、知恵を象徴します。

慈悲の柱に位置し、純粋な理性などを司ります。

第三セフィラ

ビナーと呼ばれるセフィラです。

ホクマーから流出し、知性を象徴します。

力の柱に位置し、実際的な理性を司りますね。

以上の三つを神的世界と呼び、我々の生きる世界とは別のものとして、いわゆる天として扱われます。
上記三つをアダム・カドモンの頭と呼び、以下の七つを他の体のパーツに当てはめて考えられます。

第四セフィラ

ヘセドと呼ばれるセフィラです。
ビナーから流出し、愛を象徴します。
慈悲の柱に位置し、偉大さを司り、右腕に対応します。

第五セフィラ

ディーンと呼ばれるセフィラです。
ヘセドから流出し、法を象徴します。
力の柱に位置し、悪の要素が派生される場所です。
対応する部位は左腕です。

第六セフィラ

ラハニーム、またはティフェレトと呼ばれるセフィラです。
このセフィラは上記五つのセフィラすべてとチャネルで繋がっており、慈悲と必要悪のヘセドとディーンを調停する役割を持っています。
また、下記の物質的な象徴のセフィラである三つともつながっており、まさに生命の樹の中心とされるものです。
中央の柱に位置し、慈愛と崇高を象徴します。
対応する部位は心臓です。

以上の三つは霊的世界と呼ばれ、物質世界に近づくも、調和などの点において未だ神の力に頼る部分でもあります。
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第七セフィラ

ネーツァハと呼ばれるセフィラです。
ヘセドに反射し、勝利を象徴します。
慈悲の柱に位置し、地上部分のおいてのヘセドの補完を行い、右足に対応してます。

第八セフィラ

ホドと呼ばれるセフィラです。
ディーンに反射し、栄光、尊厳を象徴します。
力の柱に位置し、地上部分においてのディーンの補完を行い、左足に対応してます。

第九セフィラ

イエソドと呼ばれるセフィラです。
基礎を象徴し、存在する万物のものの基盤として見られています。
中央の柱に位置し、男根に対応しています。

第十セフィラ

マルクト、もしくはシェキナーと呼ばれるセフィラです。
王国を意味し、カバラ的な意味合いから読み解けば、神と契約し、神の御業にて地上に創造を行う王国(=イスラエルの民の王国)となります。
物質的世界の象徴でもあり、女性的なるものとしての意味合いも重要視されます。

天に男性性、地に女性性を見出し、豊穣や生死の支配を女性性(女神)に委ねるのは古代宗教において共通に見られるシンボリズムですが、一神教であるユダヤ教はそれら女性性に付随した神性をはく奪し、すべて唯一神(男神)に付随させました。

ただ、カバラにおいてはこの最後の物質を司る部分に女性性を復活させています。
これは上記九つのセフィラと女性原理を司る最後のセフィラを、婚姻という形で契約させることで創造世界が生まれると、後世のスペインにおいてカバリストたちが読み解いたことからそうなっています。

10のセフィラを繋ぐチャンネル

以上が10のセフィラと呼ばれるものです。
これが三つの柱(中央の柱、力の柱、慈悲の柱)のそれぞれに位置しており、チャネルで繋がっています。

一部のオカルティストはこれらに、ダアト(知識のセフィラ)と呼ばれる隠れたものを追加しますね。
22本のチャネルはヘブライ語のアルファベット22文字、及び大アルカナタロットに対応しています。

19世紀末に生まれた魔術結社である黄金の夜明け団では、これら生命の樹の構成要素をいかに読み解くかが重要視され、正しく理解し瞑想することが魔術の実践に必要だと考えました。

カバラの関連書物

書物

紀元前から現代まで、様々な解釈が常に生まれ続けるカバラ。
その応用性の広さから様々なものにリンクして語られるため、一から学ぶのは大変難しいことです。
基本的な事柄をまず抑え、学びたい分野に応用されたカバラの解釈を学び、カバラの歴史を学び……
どこから触れたらいいかすらわからないというのが、正直な感想だと思われます。
ですので今回の記事では最後に、学ぶのに最低限、目を通しておくべき書物を取り上げていきたいと思います。

・基本聖典

必ず目を通しておきたいものです。

セフェール・イェーツィラー(創造の書)

2~6世紀に成立したとされるカバラの基本聖典です。
神学的な考察、神話的な話によりがちな古代聖典の中では珍しく、理論的な宇宙論を述べているのが特徴的ですね。
セフィロトなどの概念を最初に示した書物でもあります。
ヘブライ文字に対する魔術的な思想もここから出てきており、この本の秘密を解き明かしたものは森羅万象を自由に操れるとも言われています。

セフェル・ハ・バヒル(光明の書)

おそらく12世紀あたりに作られたとされる、旧約聖書の注釈書の形式で書かれたカバラの基本聖典です。
現代主流なカバラ思想の原点であり、セフィロトにおける悪の概念や、女性性を含めた両性具有的セフィロト解釈、神的人物の肉体部分の象徴、セフィロトと倫理の関係などは、すべてこのバヒルの書が原点とされます。
また、セフィロト論を樹の形式に定義しているのもこの書物が発端であり、まさにカバラの特性を定めた本です。

セフェル・ハ・ゾハール(光輝の書)

13世紀ごろに作られたとされる、カバラ思想の集大成のような聖典ですね。
ユダヤ教における聖書(タナハ)と口伝律法の集成(タルムード)に並んで第三の絶対的聖典とまで呼ばれる書物で、中世以降のカバラ思想はこの書物と共に発展したと言っても過言ではない書物です。
多くの写本としてバラバラに伝わっており、纏め難かったことからもその全集は20世紀になるまで出てこなかったと言われています。
それまでは大ゾハルと小ゾハルの二つのテキストが使用されました。
カバラ聖典の中で最も重要視されるものです。

トーラー

ユダヤ教の聖書(タナハ)における最初のモーセ五書の部分のことです。
直接的にはカバラと関係ないのですが、まず基本的なユダヤ神秘思想を理解するには必ず目を通しておきたいものです。
また、ヘブライ語に付された魔術的な解釈を用いてトーラーを読むことで初めて、カバラの真なる理解を得られるという見方もあり、できれば原文で読んでおきたい書物ですね。

解釈書物

基本聖典を読み終えた後、追加で読んでおきたい書物です。

Jewish Magic and Superstition

アメリカの改革派ラビであるジョシュア・トラクテンバーグが書いた、ユダヤ教の魔術や呪いなどをまとめた本です。
思弁的なカバラではなく、呪術、魔術として実践されるカバラを学ぶことができる書物です。

The Key to the True Quabbala

チェコのオカルティストであるフランツ・バードンによるカバラの解説書です。
ユダヤ・カバラやヘルメス・カバラではなく、言語魔術としてのカバラを解説しています。
言霊的な魔術的カバラの書物として、カバラの可能性が広げられた書物です。

A Kabbalistic Guide to Lucid Dreaming and Astral Projection

マーク・スタヴィッシュ修士によるカバラ的な要素から見た幽体離脱論文です。
危険な方法などが記されているものではないため、初学者にもお勧めしやすいものです。
ヨーガなどの知識があれば読みやすいです。
カバラの可能性がいかに広いかという事が実感できる文章ですね。

天使ラジエルの書

天使ラジエルがアダムに開示したと言われる書物ですね。
中世に作られたと目されており、カバラ的な魔術書として、ルネサンス期の魔術に大きな影響を与えました。
その書物自体が聖なるものとされ、一部ユダヤ教信者は常にポケットに持ち歩いたり、枕の下に居れたりすると言われています。

有名なもので言えばこんな感じでしょうか。
カバラを詳しく学びたい人は、上記の書物を押さえつつ読んでいくとよいと思います。

他にも様々なカバラを扱う書物が存在し、最近では日本語の書物も増えてきていますので、常に情報をアップデートしながらも、過去の解釈と照らし合わせて、自分なりのカバラ神秘思想を作り上げていってください!

【まとめ】近代魔術カバラに足を踏み入れる

さて、ここまで大まかにではありますが、カバラについて見てきました。

数千年にも渡る秘術のごく一部でしかありませんが、これからカバラを学び始める人の一助となれば幸いです。

これを機に、近代魔術、そしてカバラの道に足を踏み込んでみてはいかがでしょうか。