数多くの島々からなるインドネシアは、のどかな田園風景の広がる素朴な国です。
それぞれの場所に多様な民族が住み、地域ごとに独特の文化を持っています。
数多くの民族の中には、通常ではありえない習慣を持つものもいます。
なんと驚いたことに、ミイラと一緒に暮らすという習慣を持つ民族がいるのです。
それがトラジャ族とよばれる先住少数民族。
ミイラと一緒に暮らすとは、一体どういうことなのでしょうか?
また、トラジャ族の葬式の方法もかなり独特です。
今回は、ミイラと共に暮らし、驚愕の葬式を行うインドネシアのあるトラジャ族について詳しく解説。葬式の後の埋葬方法も紹介します。
昔からある独特の習慣を守っているトラジャ族の驚くべき人生に迫ります。
ミイラと一緒に暮らすトラジャ族とは?
インドネシアのスラウェシ島の中央あたりにタナ・トラジャという地域があり、そこの山間地帯にトラジャ族という民族が住んでいます。
トラジャ族は、主に農業に従事して生計を立てています。
美しい棚田の風景が広がる、とてものどかなところで彼らは日々生活しています。
トラジャ族は、家族が亡くなると、故人をミイラにして共に暮らします。
病院で故人をミイラにする処置をしてもらい、数か月、時には数年もの間一緒に生活するのです。
残された家族は、故人に毎日食事を用意し、服を着替えさせ、座らせたり寝かしたりします。
今までと同じように話しかけ、まるで故人が生きているかのように接するのです。
トラジャ族は、故人を死んでいるととらえるのではなく、病人であるととらえます。
病人なので普通に生活している、というわけなのです。
なかなか想像しづらい状況ですが、彼らは昔からの習慣としてこのようにミイラとの共同生活を続けているのです。
ミイラと一緒に長く暮らす理由
数か月から数年もの長い間ミイラと共に生活するのですが、なぜこんなに共に生活する期間が長いのでしょうか?
それは、トラジャ族が行う葬式に関係しています。
トラジャ族の葬式はとても大掛かりなもので、莫大な費用がかかります。
彼らは普段から贅沢な暮らしをせず、節約して葬式の費用を貯めていきます。
平均2万円前後の月収なので、費用が貯まるまでにはかなりの時間がかかるのです。
中には数千万円もの費用がかかる葬式を行う人もいます。借金をして葬式を行う人もいるほどです。
とんでもない費用がかかる葬式ですが、彼らにとっては人生最大のイベントであり、立派な葬式を行うために彼らは生きているといってもよいくらいなのです。
葬式の費用が貯まるまでは葬式を行うことができないので、彼らは故人をミイラにして共に長い間生活するのです。
ミイラとの長い共同生活は、故人の葬式を行うまでの遺族の心の準備期間でもあるのです。
トラジャ族の葬式「ランブ・ソロ」とは
葬式の費用が貯まれば、やっと実際に葬式を行うことができます。
葬式はランブ・ソロと呼ばれ、大変大掛かりで、とても盛大に行われます。
家族や親類だけでなく、近所の人々や隣町の人々など、合計数百人もの人々が集まり、中には数千人を超える人々が集まる葬式もあります。
観光客も参加することができ、その際には砂糖やたばこなどのお供えを持参する必要があります。
ランブ・ソロは、伝統的なしきたりにそって数日間にわたり行われます。
貴族の葬式であれば、その期間は何か月にも及びます。
葬式は、ミイラの入った棺桶を家から出し、葬式会場に運ぶところから始まります。
病人であった故人は、家から出た瞬間に死者に変わるのです。
葬式に訪れる人々は、水牛や豚などを持参します。
ランブ・ソロでは、水牛がとても重要な役割を担っているのです。
ランブ・ソロにおける水牛の役割とは
水牛は、故人を天国へ連れていく重要な生き物として扱われます。
訪れた人々の目の前で、水牛は故人のために生け贄として命を捧げられるのです。
その様子は目を背けてしまうようなものですが、トラジャ族の葬式におけるしきたりのひとつとして普通に行われています。
生きた命を捧げることに対しては是非があると思われますが、昔からの習慣として彼らは生け贄の儀式を行っているのです。
水牛の数が多ければ多いほど早く天国に行けると信じられているので、生け贄にする水牛の数は重要です。
故人の社会的地位が高いほど、水牛の数も多くなります。
水牛は1頭25万円くらいで、中には1000万円もするものもいます。
こういったことが、トラジャ族の葬式が高額になる原因のひとつになっているのです。
数十頭から数百頭の水牛が生け贄にされ、その後は調理されて参加者に振る舞われ、土産用としても分けられます。
人生の晴れ舞台であるランブ・ソロ
ランブ・ソロでは、水牛だけでなく、豚も生け贄として命を捧げられます。
葬送歌が歌われ、故人の魂が、人生の次のステージである天国に旅立つことを祝います。
ランブ・ソロは葬式ですが、明るく、そして楽しく笑顔で行われます。
トラジャ族の85%はキリスト教徒ですが、その他はイスラム教や、昔からの宗教であるアルクトドロを信仰する人々などが存在します。
宗教は違っても、皆、葬式は昔からの習慣を受け継いで行っています。
トラジャ族にとって、死は永遠に流れていく魂のひとつの通過点であり、終わりではありません。
ランブ・ソロは人生の晴れ舞台であり、盛大なお祭りなのです。
ランブ・ソロ後の埋葬方法
数日間のランブ・ソロが終わると、遺体は墓へと運ばれます。
墓は各地にあり、ここではその中のいくつかを紹介します。
レモ、スアヤの岩窟墓
レモやスアヤという村にある高い岩山の中腹には、小さい横穴がたくさん開けられています。
その横穴は遺体を納める場所で、木の扉で蓋をするようになっています。
故人が天国に行きやすくするため、より高いところに横穴は開けられます。
さらに、横長の穴も開けられていて、そこにはタウタウと呼ばれる死者人形がずらっと並んでいます。
タウタウとは故人の身代わりの木彫りの人形で、故人そっくりに作られ、その故人の魂が宿るといわれています。
これらは主に王族やお金持ちの人々のもので、庶民は遺体を小さな横穴に納めるだけになっています。
ロンダ、タンパガロの洞窟墳墓
ロンダやタンパガロという村にある洞窟や鍾乳洞が、そのまま墓穴として利用されています。
岩壁に棺桶が吊るされ、地上には人骨が安置されています。
高所にはタウタウが並べられています。
「マネネ」という驚きの儀式も!
墓に遺体を納めたらそれで全てが終わり、ではなく、3~4年に一度、ある儀式を行います。
それは、遺体であるミイラを墓から取り出し、洗い、服を着替えさせ、家に連れて帰り数週間保管する「マネネ」という儀式です。
葬式前に故人をミイラにして生活を共にしていた時と同じように、食事を用意したり、普通に話しかけたりします。
「リアン・ピア」と呼ばれる乳児の墓
トラジャ族の乳児が亡くなった際の埋葬方法もまた独特なものです。
「リアン・ピア」と呼ばれる乳児の墓があるのですが、それは、木の幹に乳児の遺体を納めたもののことです。
木の幹に穴が開けられ、そこに乳児の遺体が埋葬され、木の扉でふさがれます。
幹からは白い樹液が出ていて、それが母乳代わりとなります。
天国でもすくすくと育つように、との願いが込められているのです。
【まとめ】ミイラと暮らすトラジャ族の習慣
トラジャ族は、生と死はそれぞれが遠いものではなく、双方共が魂の流れの一部だととらえています。
死は生の隣にあり、とても身近で自然なものとして受け入れているがゆえ、生も尊いものとして感じ取っているのです。
ミイラと暮らし、盛大な葬式を行い、故人を墓に納めた後また数年後に故人と対面し、きれいにして敬うトラジャ族。彼らの人生は、死と共にあるのです。
トラジャ族の習慣は、故人への畏敬の念あふれる昔からの大切な習慣です。
その様子はとても独特ですが、生とは何か、死とは何かを否が応でも考えさせられるのではないでしょうか。