2021年3月20日、中国国家文物局(日本の文部科学省に相当する)が中国西部の四川省において三星堆遺跡(さんせいたいいせき)での重要な発見があったと発表しました。
三星堆遺跡といってもほとんどの方がピンとこないのではないでしょうか。
この三星堆遺跡は実は古代の宇宙人が作ったオーパーツではないか?と好事家の間で噂されているものなのです。
今回は三星堆遺跡とオーパーツの謎に迫り、しかも中国共産党の政治的陰謀論の謎に迫りたいと思います。
三星堆遺跡とはどんな遺跡なのか
三星堆遺跡とはどのようなものか、今回はオーパーツと陰謀論がメインなので、簡単な紹介にとどめます。
この遺跡は、長江文明に属する古代中国の遺跡の1つで、1986年に四川省三星堆で発見されました。
その起源は約5000年前から3000年前までの2000年間続いたとされるものです。
もっとも古い発見物は石器と陶器であり、都市が建設され、3000年前には青銅器が使われていたようです。
この遺跡からは独特のフォルムを持った青銅製の仮面や巨大な人物像、古代人が考えた青銅製の神樹が発掘されました。
三星堆遺跡は古代の宇宙人が作った文明か?
三星堆遺跡から見つかった異様な青銅器の仮面や人物像は宇宙人を象ったものではないか、そのような噂が一部ではあります。
古代宇宙人文明説を検証する前に、簡単に古代中国の文明について簡単に紹介します。
中国で最も古い王朝は紀元前1900年ころ存在した夏(か)王朝です。その後殷(いん)王朝に滅ぼされるまで471年続いたといわれています。
そもそも夏王朝自体、「実在の可能性」が考古学資料の発掘により示唆されているにすぎないのですが、実在したとすれば、タイトル通り「中国4000年の歴史」は真実だといえます。
さて、三星堆遺跡は夏王朝よりも古く、紀元前3000年に存在した文明といわれており、中国は4000年どころか5000年の歴史があったことになります。
しかし、この遺跡から発掘された仮面や人物像があまりに突飛なもので、中国で発見された他の遺跡の文明とはあまりに異なるため、宇宙人の遺跡なのではないかと噂されました。
たしかに、これらの仮面や人物像を見ているとあまりに人間離れしており、また当時の作りからしてあまりに精巧なので宇宙人文明説もさもありなんと思えてきます。
では本当に三星堆遺跡は宇宙人が作ったものなのでしょうか?
三星堆遺跡は宇宙人ではなく古代の人々が作り上げたもの?
実はこの疑問に対して、中国の国営メディア・新華社通信が今年の3月21日に三星堆遺跡は宇宙人とは関係ないとの記事を発表しました。
記事によると、遺跡から出土した青銅器に刻まれた文様などは河南省にあった中原文化と酷似しており、古代中国人が作り上げた文明の1つであるとのことです。
この点、英語圏の巨大掲示板であるRedditにおいても興味深い書き込みを見つけました。
その書き込みを訳してみると、
「三星堆遺跡で見つかった青銅器は石家河遺跡で見つかったヒスイのアクセサリーと同じような形で、それを青銅器に変えたに過ぎない。石家河遺跡は紀元前3000年ころに栄えており、三星堆遺跡は明らかに中原文化の影響がある」
以上、中国「国営」メディアと「英語圏の巨大掲示板に現れた古代史マニア」の意見を総合すると、三星堆遺跡は古代中国人が作った文明と結論づけられます。
確かに宇宙人文明説は突飛すぎます。しかし問題はここからです。「中国国営メディア」、「巨大掲示板の書き込み」、この2つがこの遺跡に関する陰謀論に結びつくのです。
中華人民共和国について
ではその陰謀論とは何か、その前に簡単に中華人民共和国についてお話しします。
最近何かとニュースを騒がせている国といえば中華人民共和国(以下、中国)でしょう。日本の経済・安全保障に常に話題を提供してくれる国です。
この国の政治システムは中国共産党の一党独裁政治により成り立っており、ニュースで耳にする「中国政府」という言葉は「中国共産党」と置き換えて解釈すべきです。
中国共産党とは共産主義思想をイデオロギーとした政治団体(政党)であり、すべての政策決定はこのイデオロギーに従ってなされます。
このイデオロギーについては本稿では紹介を割愛しますが、中国における大きな内政問題として、「少数民族への弾圧」があります。
ニュースでも中国政府によるウイグル人弾圧が取り上げられ、国際社会、とくに西側諸国においては中国政府への多大な懸案事項とされています。
少数民族への弾圧が問題とされていますが、中国においては多数の民族が住んでおり、その中で最大の民族が漢民族で、中国人口の92パーセントを占めています。
要するに、中国とは、漢民族でしかも共産主義イデオロギーに賛同する人間の国といえます。
中国共産党が隠蔽したい三星堆遺跡
この遺跡に関する中国共産党の陰謀論を理解していただくための前提として前置きが長かったですが、陰謀論についてお話しします。
2015年2月、中国古代史に詳しい中国人ジャーナリスト程健軍氏が興味深い発言を「週プレNews」に載せています。
それによると、「三星堆遺跡をドイツやフランスの研究者が発掘したいと言ってきているのに対し、中国政府が彼らが来る前にすべて掘りつくそうと躍起になっている」とのことです。
程氏は「漢民族が主流の中華人民共和国にとっては、(漢民族が興した)黄河流域文明が”中華文明”の正当な出発点なんです」と前置きし、
「チベット系の少数民族が多く住んでいた長江の上流、四川の奥地で高度な文明が見つかった….漢民族にとっては、誇らしい歴史が根底から覆される大問題です….中国共産党も中華文明の発祥は少数民族では非常に困るんです」と続けました。
要するに、中国共産党にとって黄河文明に属しない長江文明の1つである三星堆遺跡のほうがより古い歴史を持つことは許容できないということです。
そこで振り返ると、今年になって発表された中国国営メディアによる「河南省(黄河文明)にあった中原文明に酷似」という発表や、突如英語圏の巨大匿名掲示板に現れた石家河遺跡(黄河文明)との連続性の指摘は、中国共産党による情報操作のような気がしてなりません。
[ad]どうして中国共産党は三星堆遺跡の情報操作をするのか
中国国営メディアの発表では、三星堆遺跡には黄河文明の影響があり、マクロ的に見て黄河文明=漢民族の文明であるとしています。
中国共産党にとっては、中国には黄河文明より古い文明が存在し、多数派である漢民族があとからやってきて侵略したという古代史は対外的にマイナスと考えられます。
というのも、現在ウィグル人弾圧問題をはじめとして国際的に白眼視されている中国政府(中国共産党)が、思想的な面ではなく民族的にマジョリティな漢民族も実は侵略者だったという事実を受け入れるのは大問題だといえるでしょう。
Redditにおける書き込みへの反論として、このようなものがありました。
「中国文明の起源の多様性。中国の歴史について知識を持っているものは皆、三星堆遺跡が非中国文明(おそらく黄河文明以外の文明を指す)の遺跡であることを知っています。彼らは中原の中国人とは大きく異なり、エイリアンとみなされていました。おそらく古代中国人に殺されたのでしょう」
つまり、漢民族が実は侵略者であるとこの書き込みは指摘しています。
もちろんこれらだけで中国共産党が情報操作をしているという陰謀論の証拠とはならないでしょう。
そこで、長江文明の発見者である厳文明北京大学名誉教授の主張を紹介したいと思います。
中国総合研究センターシニアフェローの寺岡伸章氏のインタヴューに対して、厳教授はこのように答えています。
「古代より漢民族は黄河流域において文明を発展させてきたが、北方からの異民族の襲来により長江流域に住まざる得なくなった。だから黄河文明と長江文明はほぼ同時に発生した」
さらに「長江文明は中国古来のもので、ましてや漢民族は周辺の少数民族を抑圧するような支配民族ではない」とも答えています。
もし厳教授のいうように長江文明が黄河文明と同時発生したなら、夏王朝の紀元前2000年の歴史と三星堆遺跡から発掘された最古の紀元前5000年前の遺物をどう解釈したらよいのでしょうか?
また「漢民族は周辺の少数民族を抑圧する支配民族ではない」という発言はもはや論拠になっておらず、中国共産党のイデオロギーと同じではないかと勘ぐってしまいます。
【まとめ】三星堆遺跡の謎
いかがだったでしょうか、三星堆遺跡の謎について古代宇宙人のオーパーツと中国共産党の陰謀論の2つから迫ってみました。
宇宙人文明説が突拍子のないものとしても、中国共産党と漢民族の支配基盤を揺るがしかねない黄河文明より古い長江文明起源説はいかにも陰謀の匂いがしてきます。
中国4000年の歴史は実は支配者である漢民族の征服の歴史であり、本当はそれより古い少数民族の歴史こそが中国の歴史だったとしたら中国の政治にも大きく影響を及ぼすかもしれませんね。