虫食いと日焼けを繰り返し、触れるだけで崩れそうな魔導書の写本。
描かれているのは古代の宗教的秘法や魔術。
古くから伝わる儀式に沿って、あらかじめ用意したナイフの刃先を指に当て、雫のように垂れる血を魔導書に垂らして……
宗教的で、古臭く、おどろおどろしい……
多くの方が想像する魔術と言えば、こういったものではないでしょうか。
もちろんそういった魔術が実在?するのは確かです。
むしろ大半の魔術団体などで研究されてるのはそちら側と言っても過言ではないでしょう。
ですが魔術の時代も日進月歩。現代の魔術の例としてはいささか的外れと言ってもよいでしょう。
この科学の時代に魔術が発展する要素なんかあるの?と思われる方もいるかもしれませんが、むしろ科学が発展したおかげで情報伝達が進み、魔術の世界は大きく前進して言っているのです。
というわけで今回は、現代の魔術として有名な「混沌魔術(ケイオスマジック)」について、その歴史と共に概要を説明していきたいと思います!
混沌魔術(ケイオスマジック)とは
混沌魔術とは、1970年代にイギリスで生まれた現代の魔術体系の一つです。
魔術体系と言ってもその構造的に体系化はされておらず、現代の魔術で自身で体系を作っていくものの総称といった方が適切ですね。
そのため絶対的な信仰対象などは存在せず、個々人で各伝統から引用、統合して体系を作っており、そういった思想は「真実は無く、全ては許されている*1」という混沌魔術の合言葉に現れています。
絶対的な信仰対象がないということからも自由度が高く、言い換えれば不可能はない、もっとも魔術らしい魔術形態とも言えます。
芸術家でありオカルティストであるオースティン・オスマン・スパーを源流に持ち、ピーター・J・キャロルとレイ・シャーウィンの二人がケイオスマジック(混沌魔術)としての体系を基礎づけていきました。
現代のドイツを代表する魔術師であり、IOTの初期参入者でもあるフラーテル U∴D∴によると、この混沌魔術は情報モデルと言われる分類に属するものであり、極めて現代的であり、かつ諸基礎原理は存在する古代魔術形態と共通しているともいわれます。
ただ、この共通しているという点においては、私、著者個人的な意見として、西洋系魔術団体における東洋の神秘化が強くかかっているようにも思われ、実際フラーテル U∴D∴モデル分類したModels of Magicでの説明では、東洋のグルの話を伝え聞いたような物言いではあれど、それがいかに古代魔術形態と繋がるのかが不明です。
ただ、その上で混沌魔術は、上記したように様々な魔術形態から引用している面があるため、形態として古代魔術と関連性があるという事において、および下記で説明するノーシスなどの概念において共通点があることは事実だと思われます。
混沌魔術の特徴、実践について
混沌魔術は非体系的な物であり、宗派によって、また個人によって大きく実用においての作法などが変わってくるものですが、それでもある程度、現代魔術としての特徴として共通している思想があります。
そういったものとして有名なものが二つ、ノーシスとシジルマジック(印形魔術)があります。
ノーシスとは
現代魔術における基礎的な概念であり、ほとんどの魔術作業に必要な意識状態とされているものです。
ピーター・キャロルにより取り入れられたものであり、大元を辿ればアレイスター・クロウリーが広げた、インドのヨガと仏教の概念であるサマーディを西洋オカルティズムに応用させたものであり、オースティン・オスマン・スパーがそれをさらに探求していきました。
主に一点の物事に集中し、他の思考が押し出されたときになる変性意識状態のことを言います。この過程を通して単純な思考などが意識下のフィルターを通して実行されるもので、混沌魔術行使の基本的概念ですね。
これらを行えるようになるまでには多くの試練や修行といったものが必要とされており、混沌魔術を行使するものは各自でこのノーシスに至る方法などを開発していきます。
ノーシスに至る方法として有名なものは主に三つ、抑制性ノーシス、恍惚ノーシス、無関心な空虚があります。
抑制性ノーシスは、深い瞑想などの手段を用いてトランス状態に向かう方法ですね。
特殊な呼吸法や、プログレッシブマッスルリラクゼーション、自己誘導、自己催眠から、不眠や空腹、感覚遮断、薬品使用などが主な方法として上げられます。一番有名で王道な方法ですね。
ヨガや瞑想などといった、多くの宗教で用いられているトランスと似たイメージのものですね。
恍惚ノーシスは、性的なエクスタシーや、感覚的な過負荷を与えることで起こすノーシスです。
興奮的な物を強く与え続けて行うものであり、アレイスター・クロウリーの性魔術、お経などの呪文の詠唱、楽器を用いた儀式など、多くの宗教で用いられているトランス移行の方法とも言えます。
無関心な空虚は、フィル・ハインとヤン・フリースによって、第三の方法として公開されたものです。
具体的な例などは挙げにくいですが、無関心という状況下においてのノーシスを目指したものだと思われます。
例えば退屈な話を聞いているとき、意識は活性化していませんが、自動書記のようにメモを取る必要はあるといった感じのものですね。
シジルマジック(印形魔術)とは
シジルマジックとは、オースティン・オスマン・スパーにより体系化され、混沌魔術で使用されることから有名になった魔術技法ですね。
シジル(印形)自体は中世の儀式魔術など、古典的な魔術の時から存在するものであり、歴史をさかのぼれば新石器時代からシンボルとしてのシジルが確認されています。
大まかに言えばモノグラムの一種であり、広くいってしまえば企業ロゴなども一種のシジルという事ができますね。
オースティン・オスマン・スパーはこのシジルにノーシスなどの概念を組み合わせ、単純明快な魔術技法としてシジルマジックを作りました。
シジルマジックは大きく分けて四段階に分けられます。
意識化
まずシジルマジックとは願望成就のための手段です。そのためにはまず願望を明確に意識し、何を求めているのかを明らかにする必要があります。
より具体的に言えば、○○をせよ、という肯定文での願望が望ましく、気楽に、だが願望の本質を突く壮大な文章にしましょう。
シジル化
上記で作った願望文をシジル(印形)にしていく過程です。
例えば願望文が ・オカルトライターで生活していきたい であればそれをローマ字に起こし、「okarutoraita-deseikatusiteikitai」となり、ここから重複した文字を抜いて「okaruti-des」となります。
残ったローマ字を重ねるように書き、企業ロゴのように一種の模様を作り上げます。
ここで重要なのは、なんとなくいい感じのシジルを作ることです。シジルに込められた意味合いは忘れてしまっても構いません。自身の願望を何らかのシジルに変えることが重要なのです。
また上記の過程はローマ字でなくとも、ひらがなでも可能です。
例えば「オカルトライターで生活したい」であれば、「おかるとらいたーでせかつし」となり、残った文字をシジルになるように重ねて配置していきます。
また、この過程の時にマントラ(呪文)も作ってしまいます。
上記の重複文字を取り除いたローマ字を用いて作れば、「okaruti-des」なのでそのままよんで「オカルチーデス」といった感じですね。
ただこれではマントラ感が少ないので、もう少しそれっぽくしていきたいですね。
コツとしては、特定の意味合いを連想しにくく、言いやすい雰囲気有るものとすることです。元となるローマ字を入れ替えてもいいので、それっぽいものを目指して作っていきましょう。
「okaruti-des」であればそれっぽく並び替えて「oskuderi-tu」テンポなんかもつけて「オスク・デ・りーツ」みたいな言い方にしてしまえば、原形を思い出すこともなくある程度言いやすいかと思われます。
これらは自身でカッコよさや美しさを納得できるまで探求していく部分ですので、結構自由に創作もとい捜索してもらって構いません。
活性化
上記で作ったシジルやマントラを活性化させるため、無意識に強烈に覚えさせる必要があります。それをすることにより、無意識なノーシスの状況でもシジルを使うことができるようになり、無駄な欲望に邪魔されずにシジルが運用されます。
この活性化(充電やチャージなどとも)は多くのやり方があれど、主にノーシスを利用して刷り込んでいくことが基本です。
例えば性行為中にシジルとマントラを意識し続けるのなどは有名な方法でしょう。
他にも瞑想やマインドフルネス、断食なんかも有効でしょうし、シジルを何もない場所に想像で浮かび上がらせる、視覚化を用いるのもありでしょう。
そういった複数の方法をうまく用いて、シジルやマントラを無意識に投げ入れます。
忘却化
最後に行うのは忘却化です。
シジルやマントラの元の意味合いを忘却し、意識しての理解をしなくなるようにします。
この段階は人によってはスキップされる場所ではありますが、これをすることによって欲望などに邪魔されずにシジルの効果を実現化させることができます。
既に活性化しているため、元の意味を忘れてしまっても大丈夫です。
こういったシジルが魔術師の意識から独立して動くようになれば、それをServitor(使い魔)と呼びます。
人によれば、シジルを紙などに書きそれを物理基盤にし、Servitorを視覚化しつつ召還することでまるで陰陽師の式神のような使い方をする者もいます。
[ad]混沌魔術を学ぶには
混沌魔術を学ぶには、いくつかの手段がありますが、基本的には独学か魔術団体に属することでしょう。
というわけで今回は最後に、独学に使える文献の紹介と、いくつかの魔術団体を紹介していきます。
文献
『MMMの書』
これは魔術結社「タナトエロス啓明結社(The Illuminates of Thanateros、略してIOT)」において、第四階位の学習用マニュアルとして用いられていたものです。
精神制御などを始めとした、混沌魔術の基礎から乗っている入門に向いている本ですね。
『KKKの書』
上記と同じくピーター・J・キャロルの著作であり、魔術師の開発カリキュラムとして意図されたものですね。
召喚(Evocation)、占術(Divination)、まじない(Enchantment)、招聘(Invocation)、啓明(Illumination)といった五つの古代魔術技法を、妖術、シャーマン魔術、儀式魔術、アストラル魔術、高等魔術といった五段階の方法でそれぞれ記されており、計25の魔術作業を記しています。
『The Psychonaut Field Manual』
Blueflukeによる漫画形式の混沌魔術入門書。
イメージがつかみやすく、わかりやすいながらもかなり高度なところまで描かれています。
『1日30分であなたも現代の魔術師になれる!混沌魔術入門』
元IOT日本支部長であり、現在日本で一番大規模な混沌魔術結社でもある「混沌の騎士団」における教科書作成者の黒野忍氏による著作ですね。
日本語の文献としては一番わかりやすく、本質的な物を学べる本となっています。
魔術結社
『タナトエロス啓明結社(The Illuminates of Thanateros、略してIOT)』
1978年にアイデアが作られ、1987年に秩序立てられた、世界初であり最大の混沌魔術団体ですね。
比較的入団が難しく、多くの参入希望者が拒まれているそうですが、もし参入できればこれ以上なく上質な混沌魔術を学ぶことができるでしょう。
公式サイトにて多くの文献や記事などが公開されており、それらを読むだけでも学べることが多いと思われます。
『混沌の騎士団』
日本で唯一まともな混沌魔術を学べる魔術団体です。
上記で紹介したIOTに日本で初参入した黒野忍氏が教科書を監修し、現在でも活発に活動されている団体です。
霊感詐欺の被害者の救済などをモットーにあげており、実績も出ているとのことで、安心できる魔術団体といってもよいでしょう。
入団において三次審査まであり厳しいと感じる部分もありますが、日本語文献での混沌魔術研究はこの団体が一番進んでいるため、トライしてみるのもありかもしれません。
混沌魔術まとめ
まだまだできて歴史の浅い混沌魔術ですが、世界各地で研究され、最近の魔術トレンドとして最も暑いものといえます。
可能性が最も広く、不可能がない混沌魔術、あなたもぜひこれを機会に始めてみてはいかがでしょうか。