浦島太郎伝説は浦島太郎が子どもたちにいじめられていた亀を助けて、そのお礼に美しい乙姫様が住む竜宮城に招待されるという話で知っている人も多いでしょう。
でも、この浦島太郎伝説は、実は古くから伝わる昔話を脚色したお話しなのです。
その昔話では浦島太郎伝説とは違い、亀が召使ではなく違う存在として登場します。今回は本当の浦島太郎伝説についてご紹介いたしましょう。
浦島太郎の話は丹後半島に伝わる昔話を元にした創作だった!
現在、私たちが知っている浦島太郎伝説は、明治時代あたりから全国的に知られるようになった話になります。
いまのバージョンで日本全国に知れ渡るようになった理由は、小学校で使う教科書が一躍買ったからです。
学校に通う子どもたちが教科書で浦島太郎伝説に触れたことで、浦島太郎が助けた亀に連れられて竜宮翔に行き乙姫様にもてなされる内容が定着していきました。
浦島太郎の話は小学校の教科書に登場し広がった
浦島太郎伝説は「ウラシマノハナシ」として、明治43年に小学校2年生用の国定教科書である「尋常小学読本」に載りました。
これがいまの浦島太郎の話の初出となり、昭和24年まで教科書に出され続けました。
教科書の浦島太郎伝説は児童文学者の「巌谷小波」が編纂に携わり、巌谷小波は丹波地方に伝わる昔話を元に浦島太郎の話を作っています。
巌谷小波は著書に「日本昔噺」があるのですが、こちらの方にも浦島太郎の話を載せています。
「日本昔噺」の浦島太郎の出だし部分に浦島太郎が丹波の国に住んでいる記述があるので、そこから丹波地方に伝わる昔話が元になっていることが分かります。
丹波地方に伝わる昔話バージョンでは主人公の名前は浦島田太郎ではない似たような別の名前になっていて、創作するにあたり主人公の名前を浦島太郎に置き換えたのでしょう。
明治44年から浦島太郎の話は文部省唱歌にも使われていたので、主役の名前を浦島太郎にした創作話は子どもたちに深く浸透し、あたかも昔から伝わる話のように次の世代へ創作話が伝わったと推測できます。
浦嶋子伝説が昔話の元。亀や玉手箱はどうなる?
浦島太郎の話の元になっている昔話は浦嶋子伝説といい、丹波地方で古くから伝わる話で「丹波の国風土記」に収められています。オリジナルの伝説では浦島太郎に当たる主役が、「浦嶋子」という名前です。
浦島太郎の相違点として浦島太郎は亀の背中に乗せてもらい竜宮城に行きますが、浦嶋子は亀の背中には乗らず自分で舟を漕いで竜宮城に向かいます。
浦嶋子伝説は浦島太郎と同じく亀がキーワードになりますが、その点でも亀の扱い方が違い浦島太郎は亀を助けるパターンで浦嶋子は亀をたまたま釣り上げただけで特に助けていません。
浦嶋子は棚ぼた的に亀と出会い竜宮城に行くチャンスを得ているのに対して、浦島太郎は亀を助けて善いことをしたからお礼に竜宮城に行ける設定になっています。
浦島太郎の話は教科書に載せるにあたり、子どもの教育向けに浦島太郎が亀を助ける場面を入れたのでしょう。
浦嶋子伝説では実は亀がお姫様である
浦島太郎が助けた亀は海の中にある竜宮城の乙姫様に仕えていることになっていますが、浦嶋子伝説では竜宮城に住むお姫様は乙姫様ではなく「亀姫様」で、その亀姫様こそ浦嶋子をお城に導いた亀なのです。
亀である亀姫様は美しく魅力的な女性なので、浦嶋子と亀姫様は深い仲へと進展していきます。
浦嶋子は一介の漁師ではなく名家の出身でイイ男らしい
浦嶋子の職業は漁師となっていますが、出自については諸説あり天照大神の弟・月読命の子孫である豪族とも言われています。
豪族は土地を治める権力者となるので、浦嶋子は漁師であっても名家の出身である人物と考えられます。
浦嶋子は家柄が良い上に見た目もイイ男であるようです。丹波地方の筒川村に伝わる浦嶋子伝説では浦嶋子は容姿端麗の若者であるとされ、その立ち居振る舞いも上品だったと言います。
浦嶋子は家柄良し・見た目良しの好青年ということで、女性にとっては惚れる要素がそろった理想の男性です。
[ad]浦嶋子が出会った亀は神仙の国のお姫様
浦嶋子は海に小舟を出して漁をしても全く魚が釣れなかった時に、不思議な五色をした亀を釣り上げました。亀を舟に上げた後に浦嶋子は急に眠気がして、その場で寝てしまいます。
眠りから覚めると色からして普通ではない亀は、美しい女性へと姿が変わっていました。
美しい女性は浦嶋子に自分は神仙の国から来たと言い、浦嶋子を慕う気持ちを伝えて一緒に神仙の国へ行こうと誘います。
今まで見たことのないような美人に想われて浦嶋子も喜び、女性が指さした方角へと舟を進めようとします。漕ぎだして再度の眠気に襲われた浦嶋子は、また寝てしまい気づくと宮殿がある大きな島に着いていました。
浦嶋子は島に上陸すると女性の両親がいる屋敷へと案内されて、そこで美しい女性の招待が「亀姫様」であると知ります。
亀姫様は神仙の国のお姫様で彼女の家族たちにも歓迎されて、浦嶋子はお酒やごちそうをふるまわれます。
地上でもモテていただろう浦嶋子は、知らぬ間にどこかで亀姫様に見初められていたのでしょう。
浦嶋子と亀は結ばれて夫婦になっていた
人間の国とは違い豊かで美しい神仙の国で、浦嶋子は亀姫様と結ばれ夫婦になります。
浦嶋子は極楽のような世界で隣には美しい妻がいる幸せな日々を送り、いつしか地上の暮らしについて忘れて3年の月日が過ぎました。
神仙の国は浦嶋子が見聞きしたことがない珍しい物ばかりで、家柄が良くても漁師として慎ましく暮らしていた彼には興味深かったのかもしれません。
新しい物に触れられて美味しい食べ物も飽きるほど口にできる恵まれた環境で過ごせば、浦嶋子も遊び盛りの若者なので故郷をつい忘れてしまいがちになります。
そんな楽しい日常も毎日続けば退屈してしまうのか、浦嶋子はふと故郷に思いを馳せるようになっていきます。
「帰りたい」と次第に浦嶋子は思うようになり、それが浦島太郎の話と同じ哀れな結末を辿るきっかけとなりました。
お姫様がくれた玉手箱は妻から夫へのお仕置きか?
神仙の国で亀姫様と夫婦になり幸せに暮らしていた浦嶋子ですが、望郷の念が募り妻に「故郷に帰らせてほしい」と頼みます。
妻は夫の頼みを聞き入れて、浦嶋子が故郷に帰ることを許しました。
浦嶋子を送り出す際に亀姫は彼に、浦島太郎の話と同じく玉手箱を渡します。
「開けないで」と約束して夫に渡した玉手箱は、妻からの夫へのお仕置きとも取れます。
愛を誓ったのに浦嶋子は妻の亀を裏切った?
浦嶋子と亀姫様は「永遠に一緒に暮らす」と固く誓い合い、お互いがそれを納得した上で夫婦となりました。
夫の口から故郷に帰りたいと告げられた亀姫様は、当初は誓い合ったことを出して夫の里帰りに反対していたのです。しかし浦嶋子の決心は変わらず、妻は諦めて帰ることを認めます。
夫の行為は妻にとっては「裏切り」と思われても仕方なく、実際に一緒にいると誓いながら妻の側から離れることを願ったので、亀姫様は心の中では裏切られたと思い傷ついたでしょう。
玉手箱をくれたのはある意味で妻の賭けか
故郷へと帰る浦嶋子に亀姫様は玉手箱を渡すにあたって、夫に玉手箱のふたを開けないように強く言います。
妻である自分とまた会いたいなら開けないでほしいと願い、夫は妻に絶対に開けないことを約束します。
でも浦嶋子は妻との約束を守らないで、ふたを開けてしまいます。
神仙の国から故郷に戻った浦嶋子ですが、そこに彼を待っている両親の姿はありませんでした。神仙の国で3年暮らしていた間に、浦嶋子の元いた場所では300年もの月日が過ぎていたのです。
待つ人も帰る家も失くした浦嶋子はしばらく当てもなくさ迷い歩き、淋しさからか神仙の国に残した妻の亀姫様に会いたいと思います。
妻が別れ際にくれた玉手箱を見ている内に亀姫様への恋しさが堪えられず、約束を忘れてふたを開けてしまいました。
玉手箱を開けた浦嶋子は見る間に体が年老いて、若者から老人の姿へと変貌してしまいます。
身寄りのない老人となった浦嶋子がその後にどうなったか、伝説ではっきりと伝えれてはいません。
想像するに浦嶋子の残りの人生は、生易しいものではないでしょう。
結婚の誓いを破って自分を裏切った夫に亀姫様が玉手箱を渡したのは、もう一度だけ信じたかった彼女の賭けとも思えます。
約束を守って玉手箱を開けなかったら許して迎えに行く、開けたら約束を再度破った罰を与える。
そんな想いを込めて亀姫様は、玉手箱を手渡したのかもしれません。
浦島太郎と浦嶋子に共通するのは約束を守るという教え
浦島太郎と浦嶋子の話は、どちらも最後にお姫様との約束を破って玉手箱を開け老人の姿になります。
誰かと約束するのは決して軽い心でしてはいけないもので、それを破る者は相応の罰を受けなくてはならないと説いているのでしょう。
おとぎ話、昔話、伝説は教訓のような部分を含んでいるので、浦島太郎と浦嶋子の話も「約束は守る」という人間にとって大切なことを教えていると言えます。